Subsections
次節以降で必要になる3項間漸化式
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(2.36) |
の解法をここで示しておく。特性方程式
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(2.37) |
の解をとおくと、上付きの添字を用いて、つまりとして、
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(2.38) |
と因数分解できる。ここでの括弧を外すと、
となって
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(2.39) |
が得られる。同様にして
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(2.40) |
も得られるから、もし
であれば(2.5)から(2.4)を引くことによって
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(2.41) |
を得る。よって解は
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(2.42) |
となり、特に
ならば(2.6)より
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(2.43) |
と表される。またの場合は、(2.4)より
であり、であれば両辺をで割って
となり、よって
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(2.44) |
を得る。
前章で用いた差分演算子は、が増加したときのの増分を得る演算子であるが、その拡張としてが
だけ増加したときのの増分を得る差分演算子を
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(2.45) |
と定義する。また
の逆の演算として不定和分を
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(2.46) |
と定義する。例えば
であり、よって
である。前章の結果も踏まえて、上の定義から
となり、またずらし演算子
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(2.49) |
を用いて
となることが分かる。
このように定義したは前章のよりも微分との対応がはっきりする。つまり、の定義式(2.10)の両辺をで割れば
となるから、
の極限において上の式はの導関数を与えるのである。さらに
であるから、これを変形して
とすれば、
の極限では通常の不定積分
となるのである。
さて、における和分定数は
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(2.52) |
で特徴付けられる関数の全体で、そのうちの任意の関数を
と表す。例えば
となるから、
は和分定数である。和分定数はごとの値を見る限り定数であるから、
のように定数と同じ役割をする。その意味で
を単に
のように表記することもある。
最後に定和分を
に対して
と定義する。この定義に従えば、任意のに対して
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(2.55) |
が成り立ち、また (
)、
とすれば
となるので、任意のに対して
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(2.56) |
が成り立つ。
降冪の定義を、
に対して
と拡張すると、任意の整数に対して
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(2.58) |
となる。つまり、
の増分との増分の間には
という「比例」関係が成り立ち、
の極限では
となる。
更に一般的に、降冪を
に対して
と定義する。差分をとれば
となる。例えばとすれば
となって通常の合成関数の微分と同じであるが、が2次式以上の場合はきれいな形にならない。しかし
の極限では
に対して
となり、うまく対応する。
差分における指数関数
は、通常の指数関数から考えて
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(2.65) |
という「比例」関係を満たす関数であるとする。
を具体的に求めるために、この式を
と変形する。まずという点のみを考えると、この式は
となり、通常の漸化式
と同じようにして解くことができる。
であるから、
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(2.66) |
となり、同様の考え方で一般に
における値は
となることが分かる。
の値はどのように選んでも(2.30)は満たされるのだから、できるだけ
を簡単にすることを考える。を(2.31)に代入すれば
となるから、任意のに対してこの式が成り立つように
の値を選び、さらに
という条件を加えれば
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(2.67) |
が導かれる。この
は
となって確かに(2.30)を満たし、
のように指数法則も満たし、しかも
の極限を考えればが得られるので、(2.32)はごく自然な定義だと言える。
では一体に対応する関数、つまり差分をとると倍になる関数は何であろうか。注目すべきは
の差分を求める計算の
という部分で、このがで置き換わればよい。そこで
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(2.69) |
という関数を定義すれば、この差分はうまく
となり、しかも
となる。ここでに対応する
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(2.70) |
という関数を考えると、複素平面上で点の回転する様子がよく分かる。
と同じように考えて、
は
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(2.71) |
を満たす関数であるとしよう。
は
となるから、(2.36)を整理すれば
が得られ、という点だけを考えると
という漸化式とみなせる。この漸化式の特性方程式の解は
となるから、一般項は(2.8)より
であり、よって
は
となる。
と同様に、任意のに対してこの式が成り立つよう
(
の値を選び、さらに
の条件として
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(2.72) |
を加えると、
として
が導かれる。
に関しては、条件
及び
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(2.74) |
を要求すれば、
と同様の考え方で
が導かれる。(2.38)と(2.40)から、差分においてもオイラーの公式
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(2.76) |
が成り立つことが分かる。
具体的に
を書けば
となる。
まず
の極限を考えると、
であり、また
であるから、
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(2.79) |
が成り立つ。
次に偶奇性を調べてみると、
となって余分な係数が付く。この係数を補正するために、
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(2.80) |
を用いて
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(2.81) |
とする。当然
である。
また三角関数を一般的に
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(2.82) |
とおいて加法定理を導いてみると、
となり、通常の加法定理と同じである。しかし偶奇性の崩れから「減法定理」は
となる。
最後に差分をとると、
となって通常の微分と同じである。また
と同様に
と定義すると、
であるから
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(2.91) |
となり、また
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(2.92) |
となる。
多項式がTaylor展開可能であるのと同様に、差分においても
の線形結合は「差分Taylor展開」が可能である。つまり
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(2.93) |
であるから6、
とおけば
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(2.94) |
となるのだが、もちろんがそれ以外の場合でもこの式は成り立って欲しい。もし
なら、
となって、(2.59)が正しいことは容易に分かるが、それ以外の場合はどうなるのだろうか。
の冪は第2種スターリング数7を用いて
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(2.95) |
と表されるので、多項式については(2.59)が成り立つ。よって一般の関数に対しては、をTaylor展開し、それをさらに差分Taylor展開の形に変形することを考える。簡単のために
とおくと、
となるので、
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(2.96) |
であれば、は差分Taylor展開可能である。
この極限を求めるのは難しそうなので、とりあえずそのような条件を気にしないで差分Taylor展開をしてみる。例えば
とおくと、
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(2.97) |
という二項展開を拡張した式が得られる。具体的にとすれば
となる。ここで
となるが、これが成り立つのはの場合である。しかし
であるから、収束半径を気にするよりもむしろ
という母関数と形式的冪級数の対応関係と見るべきである。つまり、差分Taylor展開は母関数からそれに対応する一連の形式的冪級数を得る方法の一つであると言える。例えば
であるから、(2.64)の母関数は
であり、
を代入することで
といった式が得られる。一つ注意しなければならないのは、和分定数やそれに類するものを展開しても正しい式が得られない場合があるということである。例えば
とおくと、
となるが、は恒等的にはでないので、差分Taylor展開不可能である。このようなことが起こるのは、差分Taylor展開は差分という演算に対する関数の振舞のみを写し取り、関数の値には頓着しないからである。
Kenichi Kondo
平成16年3月18日