1 はじめに

形式的冪級数の和, 差, 積はよく見かける. 即ち, $\sum_{n=0}^{\infty}a_nt^n$$\{a_n\}$と略記すると,

\begin{eqnarray*}
\{a_n\}\pm\{b_n\}&=&\{a_n\pm b_n\} \\
\{a_n\}\{b_n\}&=&\{c_n\},\;c_n=\sum_{k=0}^{n}a_kb_{n-k}
\end{eqnarray*}


である. ところが商について, つまり逆元については明示的な形を見たことがない. $\{a_n\}$の逆元が$\{b_n\}$である条件はKroneckerの$\delta$1を用いて

\begin{displaymath}
\{a_n\}\{b_n\}=1 \Longleftrightarrow \sum_{k=0}^{n}a_kb_{n-k}=\delta_n
\end{displaymath}

となるから, $\{a_n\}$が可逆である条件は$a_0\ne0$で, その場合には$b_n$が唯一つ決まる, という当たり前のことはよく書いてある. もう少し詳しい本だと, $a_0=1$と正規化して,

\begin{displaymath}
\frac{1}{1+t}=1+\sum_{n=1}^{\infty}(-t)^n
\end{displaymath}

において$t$ $\sum_{n=1}^{\infty}a_nt^n$を代入すればよいと書いてあるが, 代入した後に右辺の冪を展開して整理してはいない. そこで実際に$\{a_n\}$の冪の明示的な形を求めてみることにする.



Kenichi Kondo
平成16年3月18日