5 用語について

この文書で用いている用語についての注意などを述べる。

多倍長演算を意味する語は日本語では恐らくこれだけであるが、英語ではmultiple precisionの他にmulti-precision、arbitrary precision、multidigitといった形容詞や、arithmeticの代わりにcomputationも使うようである。多倍長数という日本語は余り使われていないようであり、英語でもmultiple precision numberよりも単にbignumとするようである。筆算も日本語ではこれしかないと思われるが、英語では他にschoolboy's methodなどが使われる。

Karatsuba乗算、Karatsuba除算、Karatsuba開平、Karatsuba基数変換は日本語の文献には見られないが、英語との対応や分かりやすさを考慮して使用した。ただしKaratsuba radix conversionは、名前が見当たらなかったので筆者が勝手に付けたものである。Karatsuba乗算は、Karatsuba-Ofman法(Karatsuba-Ofman method)、ディジタル法(digital method)、divide and conquer method、fractal multiplicationなどの呼び名がある。ただし、このアルゴリズムはKaratsubaにのみクレジットされているようであり、またここで紹介したものはオリジナルとは少し違うようであるが、論文が手に入らないので詳しいことは分からない。

降冪は、日本語では一般に階乗冪、下降階乗冪などと呼ばれるが、冗長に感じるので筆者は勝手に降冪をこの意味にも使っている。英語ではfalling power、falling factorial powerの両方が使われるようである。またPochhammerの記号(Pochhammer's symbol) $(x)_n$を降冪として使うこともあるが、種々の「冪ではないが、冪のようなもの」の定義に使われているので紛らわしい。

Cooley-Tukeyのアルゴリズムは、繰り返しFFT(iterative FFT)、Cooley-Tukey法(Cooley-Tukey method)、Cooley-Tukey FFTなどの呼び名がある。



Kenichi Kondo
平成16年3月18日