Sophere / にきもの / 2008年8月

にきもの

ミカエラその後

2008年8月5日

大学に入ってからサークルでオペラをやっていて、ここしばらく行っていなかったのだが、今度の演目がカルメンだというので再び行きだした。カルメンは楽しい。

で、ミカエラについて考えていたら、ものすごく不憫に思えてきた。

ミカエラは元々みなしごだったのをホセの母親が引き取って一緒に育てたのだが、ミカエラはそのうちにホセを愛するようになった。ではホセはミカエラを愛している(aimer)かというとそれは疑問である。ホセは非常にマザコン度の高いキャラクターとして描かれており、一幕でミカエラが持ってきた母親の手紙を読む場面のト書きには"(baisant la lettre avant de commencer à lire)"(読み始める前に手紙に口づけをして)とあるぐらいだ。手紙でミカエラと結婚してはと勧められらると

Oui, ma mère, oui, je ferai ce que tu désires... j'épouserai Micaëla,

はい母さん、はい、母さんの望み通りにするよ…ミカエラと結婚するよ、

と独白するが、この台詞におけるミカエラの不在感は決定的だ。母親と息子の間だけで世界が閉じてしまっている。こんな男でいいのか、ミカエラ。

この幸せな世界はすぐにカルメンによって破壊され、さらにいろいろあってホセはカルメンのいる密輸団に入ることになったのだが、三幕でそのホセをミカエラが取り返しに来る。しかしこれは愛のためではないことが"celui que j'aimais jadis"(かつて愛したあの人)という表現から分かる。では何のためかというと、育ての親つまりホセの母親が死の床にあり、おそらく頼まれて、そして育ててもらった恩から、ホセを連れ戻すことを約束したのだろう。健気である。またアリアの内容から察するにカルメンという「女」に対する対抗意識もそれなり持っているようで、全く場違いな岩山にやってきた理由にはその両方があると考えるのが妥当であろう。

四幕でホセは一人カルメンの前に現れ、二人の関係をやり直そうと懇願するが、このとき母親は既に死んでいるので、ミカエラからも見捨てられたということであろう。四幕にミカエラは登場しないが、このときのミカエラの状況を想像すると不憫に思えてしょうがない。育ての親は死んでしまったし、ホセに頼ることもプライドが許さないだろうし、全く孤独である。

作中では詳しいことが書かれていないのであれこれと考えてしまうのだが、どうにも救われないので、この際だからミカエラのその後について小説なり台本なりが書けないかと思っている。それができるだけ力を持っているわけではないが、例えば殺人犯として牢屋に入れられている(はずの)ホセにミカエラは会いに行くだろうかという視点で考えると、俄然面白くなってくる。あるいはカルメンを失った密輸団はどうなっているのか等々。いま気に入っているアイデアはレメンダードを主役級に抜擢するというものだ。彼の喜劇的な性格と、岩山で隠れていたミカエラを見つけ「てしまっ」た当人であるという事実を組み合わせると、喜劇の中のシリアスでいいものが書けるのではないかと思う。

今出川通と法然院

2008年8月22日