Sophere / にきもの / 2008年7月

にきもの

チーズケーキとピアノをめぐる三日間

2008年7月8日

以前かなり狭いところに住んでいて、そのとき省スペース性を重視して買った電子ピアノを引っ越してからもずっと使っていたのだが、もっとまともなやつを買おうとふと思って、五月下旬にローランドのHP205を注文した。電話したお店ではちょうど在庫が切れていて、納品にしばらくかかるとのことだったが、そう急ぐわけでもないので六月二十二日に配送してもらうことにした。

そうこうしているうちに配送日が近づいてきたのだが、例のつまみだけ壊れた電子レンジがまだ鎮座していて、さらによく考えてみると使っていなくてかつ壊れてもいない電気ポットがあるので、二十一日の夕方リサイクル業者に引き取りに来てもらうことにした。

二十一日は昼からゼミがあるので駅に向かっていたら、観音屋の紙袋を持っている人を見かけた。さらにその人はフードショーの紙袋を一緒に持っていたので、これは観音屋が期間限定で出店しているに違いないと思って、帰ってから調べたらまさにその通りだった。ちなみに電気ポットは無料で引き取ってもらえたが、電子レンジはつまみが壊れているだけでもリサイクル料を払わなければならなかったので、普通に捨てた方が良かった。

二十二日は予定通りHP205が配送された。HP205は鍵盤の質感を重視して選んだのだが、弦の共鳴やキーを離したときのノイズ(これは必ずしも不要なものではない)もよく再現されており、非常にいい製品だと思う。ローランドは生ピアノを作っていないので、遠慮なく高機能な電子ピアノを開発できるのかもしれない。

二十三日はフードショーに観音屋のチーズケーキを買いに行った。こんなに早く食べられるとはとわくわくしていたら、お店の人に「必ずオーブントースターか電子レンジで温めてください」と言われた。レンジオッケーなのか。しかもその方が素早くチーズがとろけるときた。あのとき伊勢丹で我慢したのは一体何だったのだろう。しかしチーズケーキが口に入ってしまえばそんなことはどうでもよくなるのである。うむ。

今月になって大学のサークル棟でピアノのある部屋を借りて久しぶりに生ピアノに触ったり発声したりしようと思ったら、六月二十三日付で新しくピアノが二台入っていたらしい。発声は思ったほどは下手になっていないようだが、どうだろう。そして生ピアノはやはり全くの別物であった。

ミマクリ

2008年7月17日

この間突然一週間ぐらい集中的にアニメ(もしくはアニメ映画)を観たので、おすすめでない順に感想など。なお、僕は主にストーリーを評価します。

東京ゴッドファーザーズ。できが悪いというよりは僕の求める方向性とは違うということかもしれないが、面白くない。偶然の重なりを描くこと自体は悪くないが、この作品の場合はどうも作為性が拭いきれない気がする。それでもいいじゃないかという意見もあるだろうが、やはり気になる。ついでに言うなら、このキャラクターデザインは好きでないし、赤ちゃんの扱いがTHE 有頂天ホテルに出てくる人形に思えて仕方なかった。

時をかける少女。一言で表すと一面的な作品。SF的考察の不足や、ある行動の理由付けが無いに等しいといった問題もあるが、全体として社会的勝者の視点でのみ描かれている印象があって、これは致命的な欠点だと思う。端的な例はあるシーンにおける「そういうことするからまたやられるんじゃん。」という台詞。非常に穿った見方かもしれないが、「わざわざ」この台詞を入れることで勝者視点であることをいいわけがましく正当化しているようにさえ思える。主役三人のような高校生活を送った人なら楽しめる作品かもしれない。

Ergo Proxy。既存のアニメその他の要素をいろいろ取り入れているなというのが全体的な印象で、攻殻機動隊はもちろん、ドームなどの設定はAVENGERっぽいし、ストーリー後半の内向性はserial experiments lainに似ているし、ピノの役回りなんかはGAD GUARDのサユリを彷彿とさせるが、かといって必ずしも面白いものに仕上がっているわけでもないと思う。制作者の顔が見えないというか、要するにオリジナル性が少ないのではないだろうか。様々な設定の詳細はオリジナルなのだろうが、こういう舞台装置を用意してこういうストーリーを展開すればこういうアニメができる、という方法論的な部分は全く型通りだと思う。とは言ってもある程度の水準は維持しているので、時間があれば観るのもいいかもしれない。個人的にはヴィンス視点でリルとの邂逅を回想するシーンが生々しくていいと思う。

千年女優。この疾走感はとても面白い。はっきり言ってそれしかないのだが、観る価値はある。ただ、一番最後の台詞は全く余計だと思う。その前のシーンで僕はちょっと感動していたのだが、ほんとに興ざめであった。監督の今敏(東京ゴッドファーザーズも彼が監督だ)は最初にこの台詞を思いついてそこから話を組み立てたらしいが、足場をつけたままで完成にしてしまった建築物のような印象がある。ついでに言うなら、変な呪いも現代にまで登場させる必要はなかったと思う。この二点さえクリアしていれば(こういう方向性の作品としては)ほぼ文句の付け所がないと思うので、惜しいところだ。

カウボーイビバップ(テレビシリーズ)。ストーリーが優れているというわけではないのだが、冒険活劇的な楽しさがいい。特に主役のキャラクター造形と、菅野よう子による楽曲がいい。オープニングは「名」をつけて呼んでいい。いい意味で雰囲気を楽しむアニメと言えるかもしれない。積極的にジャズが取り入れらているのは、監督である渡辺信一郎の音楽へのこだわりかららしい。彼はサムライチャンプルーも監督しており、そこではヒップホップが取り入れられている。こちらは全体的なクオリティは高いのにストーリーだけが極端につまらないという、なんともアンバランスな作品になっている。オープニングアニメーションは時をかける少女の監督である細田守が橋本カツヨ名義で担当したらしいが、これも名オープニングだと思う。

フリクリ。実験的なと形容される系統のアニメで、いろいろはちゃめちゃなのだが、非常に面白い。語るべき点は山ほどあるが、例えば的確かつ豊かなキャラクター造形が素晴らしい。主役はもちろん、脇役も含めてこれだけの数のキャラクターがそれぞれ全く固有の(変な)役割を以て物語を構成している様は豪華であるとしか言いようがない。下ネタが多いのもの特徴だが、ハル子のタオルは鉄壁であるのに対し、マミ美は普通にパンチラしているという違いでさえ人物描写になっている。あるいは随所で使われているthe pillowsによる楽曲も雰囲気によくマッチしており、特にストップモーションで街中をベスパが走る映像と組み合わされたエンディングはなぜだかとても幸せな気分になる。必ずしも成功しているとは言えないシーンもあったりするが、ぜひ観ておくべきアニメだと思う。なお、監督の鶴巻和哉は細田守のファンらしい。

桜蘭高校ホスト部。極めて高いレベルでバランスがとれていて、すごい。例えば桜蘭学院という舞台がどう表現されているかというと、過度の装飾を避けつつも天井の模様などの要所は丁寧に描かれていたり、廊下の窓を的確な構図とともに提示することで空間の大きさが表現されていたり、音楽としては主張しすぎない古典的なクラシック風のもの(変な表現だが)が実現されていたりと、お金持ちの学校が品良く効果的に演出されている。あるいは環の動きに注目すると、自己陶酔的に語っているときに沢山の馬鹿っぽいポーズをとらせていたり、椅子に座る動作が構図とともにきっちりキメられていたりと、丁寧に作られているのがよく分かる。そして何よりも素晴らしいのは脚本だ。一話から二十六話までを全て榎戸洋司が手がけており(フリクリの脚本も彼だ)、全くその構成力は見事である。普通に見ているだけではちょっと面白い話で終わってしまう可能性もあるが、その裏側ではありがちな展開を徹底的に避けた上で、なおかつ自然にカタルシスが得られるようにするというとんでもない業が働いているのである。ギャグタッチになったときの絵柄などが若干気にはなるが、それも全体の水準が高いから相対的にというだけで、とにかく必見のアニメだと思う。